2019年04月12日
最先端技術
研究員
西脇 祐介
毎年、米国テキサス州オースティンで開催されるスタートアップの祭典「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」。このイベントは音楽祭や映画祭に加え、最先端のテクノロジーやサービスの発表の場としても利用されるため、アイデアの発信源として世界中から注目を集める。過去にはツイッターやアップル社製品で利用できる音声認識アシスタント機能「Siri」などが発表されており、日本でも急速に関心が高まっている。
SXSW会場の1つであるオースティン・コンベンション・センター
筆者は2019年3月8~17日に開催された今年のSXSWを現地取材し、未来の職場環境に変革をもたらしそうな製品・サービスについて調査。この中から魅力にあふれていた3つの製品を紹介する。
まず、目に留まったのは、オランダの航空会社KLMが発表した「Care-E」。旅行客の手荷物を運びながら、搭乗ゲートまで案内する自走ロボットだ。展示ブースの担当者は「ロボットに搭乗券をかざすことで、顧客・フライト情報を把握します。もし出発時刻やゲートが変更になっても対応できます」と説明してくれた。ロボットはマイクロコントローラーやカメラ、音声制御、デジタルコンパスなどハイテク機能を搭載。こうした機能を改良すれば、空港だけでなくオフィスでの荷物の配送にも活用できそうだ。将来、荷物を顧客に届ける最後のラストワンインチで活躍するのではないかという予感がした。
会場に展示されていたCare-Eのポスター
次に注目したのが、米国のスタートアップ企業タップシステムズが開発したウェアラブル・キーボード。5本の指輪状の機器が連結されており、それぞれに指を通してタップするとキーボード無しで文字入力などが可能になる。指の動きを覚える必要はあるが、担当者は「1~2時間程度で操作できるようになります」という。目の前で実演してくれた操作は、スマートフォンのフリック入力よりも数段速く感じられた。操作に慣れてくると、プレゼンテーションを聴きながら、あるいはVR(仮想現実)のヘッドマウントディスプレイを装着しながら、ひざや机の上でメモを取るができる。
手に装着したウェアラブル・キーボード
最後に思わず見入ってしまったのが、イスラエルのスタートアップ企業ワイ-チャージが開発したワイヤレス充電システムだ。限られた空間ではあるが、赤外線通信の利用によって離れたところからでも機器を安全に充電できる。充電が完了すると、通信は自動的に停止する。充電できる機器の数に上限がない上に、優先的に充電したい機器を選択したり、充電時間を個別に割り当てたりできるため、IoT(モノのインターネット)やVR/AR(仮想現実/拡張現実)など幅広い分野で応用が期待される。
バッテリーを搭載せずに走る列車模型
今回紹介した三つの製品に共通する特性は、利用者のスキルレベルを問わず、だれもが本能的に便利だと感じるところだ。じっと見ていると、「早く使ってみたい」という衝動を抑えられなくなる。最近、「将来、AI(人工知能)によって奪われる仕事は何か?」といった不安をあおるような話題ばかりが取り沙汰されるが、先端テクノロジーを活用することで働きやすい職場環境が実現する可能性も大いにあるのではないか。今回のSXSWから「ワクワク感」を土産にもらって帰国の途に就いた。
(写真)筆者
西脇 祐介